第1回 仕事インタビュー 森井さん(2)
一目惚れ -やるときはやる!
大学で消防士になりたいなって思ったきっかけは、大学時代に居酒屋でずっとバイトしてたことにあるねん。そこのお店は、消防士のお客さんがめっちゃ多かってんな。マスターがジェットスキーの仲間やったらしくて、仲が良かった。ほんで大学三年のとき就職活動の時期が始まってんけど、自分のやりたいことがなかったから俺はまったく動き始めてなかった。そんな時にうちのマスターが「一回消防署に見に行ってみるか」って言ってくれて、近所の消防署へ連れて行ってくれたんよ。ほんでそこの消防署長としゃべっていた時に、それまでは喫煙室でタバコ吸ってダラダラしてたおっちゃんたちが、指令はいった瞬間にピリっと空気が変わって走っていきよったんよ。その風景を見た時に「これや!!」って思ったな。基本的に俺はだらしない人間やから、ずっとシャキッとしているのは無理でな~(笑)。ただ普段へらへらしてても、「やるときはやる」っていう仕事が自分には向いてると思っててん。ほんま、一目惚れやったわ。
頭から選択肢が消えた瞬間 -あとは勉強するだけ
消防署に行った時に、もう消防士になることは決めてた。その次の日には公務員試験の学校に申し込みに行ってたからな。もし俺が普通に就職活動してたら、どっかの企業からは内定をもらえたのかもしれん。でも俺にはアイスホッケーのクラブもあったから、就職活動しながらクラブして公務員試験の勉強もして……っていうのは無理やと思ったわけ。クラブも最後の年は頑張りたいと思ってたし、それと同時に就職活動するのは無理やなと。
だから、とりあえず家に電話して「一年で受かるか分からんけど、今年一年は就職活動せずに消防の試験だけ受けていいか?」って母親に聞いたわけよ。そしたら親は快く「あんたの自由にしいや」って言ってくれた。自分一人で決めた方がいい問題かも知らんねんけど、やっぱり親に聞いておきたかった。母親が身体悪かったし、早く働いて欲しいっていう気持ちがあることも知ってたからな。まあ親も、俺があかんって言っても聞かんやつやって知ってたんやろうけど。ちゃんと認めてくれたから、そっからあとはもう勉強するだけや。その時点で他の選択肢は頭からなくなったな。

パッと入ったのが逆によかった -ええとこばっかじゃない
高校生の時に「就職しろ」って言われてたら、消防士になってたか全然分からんな。ほんまたまたまやで。でも、たまたま入ったのがよかったんやろなって今は思うわ。ただ単に消防士になりたいと思って勉強して、詳しいことなんも知らんと試験を受けたら幸い入れたわけよ。だから俺の場合は消防署に入れただけで「よかった!」って思えた。だからその後も頑張れてると思う。
俺がもし「消防士になってこんな仕事がしたい!」って夢やら理想をずっと長い間持ってたとしたら、実際に働いた時に辛かったと思うわ。実際の仕事っていうのは、ええとこばっかじゃないからな。昔やと3Kって言われて嫌われてたような仕事やし。汚い話になってまうけど、現場ではうんこかけられることも、ゲロはかれることもあるわけよ。すごくいいイメージを持って入ってきたら「うわーかなわんな…」と思ったかも知らんけど、俺の場合はパッと思いついてパッと入ったのが逆によかったんかもしらんと思うな。
俺らの限界 -100分の1~2
俺らがたとえば100件救助に向かって、ほんまに俺らの力で助けられるのは1~2件やと思う。本人の病気を治せるわけじゃないから、これが限界。俺らが行ったからといって患者さんを治せるわけじゃないからな。お腹痛いって言われても、なんも検査できへんねん。なにが原因の病気か分からんから、普通は消化器科に連れて行く。でも心臓の病気の時もあるし、肛門とかの病気でお腹痛くなることもある。それを見分けるのが俺らの仕事やねん。この病院には夜間は先生がいなくて、こっちには消化器科の先生しかおらん時もある。たとえばこのお腹痛い患者さんを、消化器科の先生しかおらん病院に運ぶとする。それが実は心臓の病気やったとしたら既に手遅れなわけ。それだけの判断やけど、いろんな状況を見て短時間で運ぶ先の病院を決めなあかんねん。だからすごい大きい、全部の科の先生がいてる病院があったとしたら俺らの仕事はいらんのかもしらんな。すべての患者さん、どんな症状でもその大病院へ運んだらいいわけやから。俺らは結局なんもできへんくて、最後は先生に頼らなあかんねん。そういう意味では「しょぼいなー」と思うこともあるで。
高校時代は迷惑かけてばっかりやったわ -人に迷惑をかけたらあかんな、やっぱり(笑)
高校の時は、勉強は全くせえへんかったな(笑)。受験の時だけは結構やってたんやけど、周りの奴らは一年のときから勉強ばっかりしてて「こいつら、あほちゃうか」と(笑)。でも俺が行ってたのは進学校やったから、スポーツ科の生徒しか体育会のクラブに入られへんかってん。そんなんやったから、高校の時は自分が将来どんなことしたいかなんて考えたこともなかった。とにかく早く大学に入って、クラブしたいっていうことだけやったな。
だから高校の頃の自分を思い出して、今の高校生になにを偉そうに言えるかって、なんもない(笑)。勉強してたわけじゃないし、マナーがよかったわけでもないし。ほんま周りに迷惑ばっかりかけてきたな。高校の頃って周りの目が気にならへんねんな。電車のホームで座り込んだりしても、隣で嫌な思いしてる人に気がつかへん。高校の頃のことを思い出したら恥ずかしいわ(笑)。今の高校生に伝えたいことって、「高校の時は人に迷惑かけんと、彼氏・彼女と仲良くやってたらいいんちゃうか」ってことやな。俺は迷惑かけてきたけど、やっぱり人には迷惑かけたらあかんで(笑)
毎日が合宿 -俺が作った飯をみんなが食べてくれる
俺らの職業って、ほんまに学歴が関係ないんよ。だから大学に四年間通って、なんか今に役立ってることあるかって考えたら、アイスホッケーのクラブの合宿ぐらいやな。普通に朝8時から夕方5時に帰る仕事やったら、一緒に風呂入らんし食事もせえへんやん。でも俺らは朝8:30から翌朝の8:30まで丸一日24時間働いて、次の二日間を休むっていう労働時間やから、毎日が合宿みたいなもんやねん。言葉遣いとかすごい下品よ。話してる内容っていうのも80%はエロの話しやったりするからな(笑)。その中で、やっぱり男同士の世界から取り残されていく奴っていうのもおる。そこら辺はクラブで合宿して、しんどい中でわいわいやってたことっていうのは生かされてるんかもしれんな。
やっぱり24時間一緒におったら、いろんなことが見えてくる。俺は今一番下の年やからよく食事を作ってるんやけど、俺の作った飯を一緒に働いているみんなが食べんねん。やっぱり仲間意識がない奴の飯ってあんまりうまくないやん。俺が作ったものも、そりゃあ多少まずかったらまずいって言われるけど、やっぱりみんな食べてくれる。俺らは普段絶対に一人で現場に行くことがないのよ。最低でも救急隊3人、消防隊で5人。一人で仕事せえへんからな、こういう飯を作る、食べるところの信頼関係やら仲間意識っていうのがすごい大事やねん。