第1回 仕事インタビュー 森井さん(3)
利益の無い仕事 ―一生懸命してはる人の言葉
俺らがやってることって実は利益のない仕事なんよ。お金儲けする仕事じゃないからな、結構成果の見えにくい仕事なんかも知らんな。人を一人助けたから、何円っていう仕事じゃないし、こっちから火事起こすわけでもないし。だからすごい成果の見えにくい仕事やと思う。呼ばれたら行くけど、そこで何かをしたからって給料が変わるわけじゃないからな。ほんまに特殊やと思うわ。なんもなかったら、なんもないなりにお金はもらえるわけやから。
だからモチベーション低い人もいっぱいおるよ。でも俺はそんな人相手にせえへん。俺は好き嫌い激しい方やから、信頼できる人を決めてこの人に付いていこうって思ってる。公務員は、たとえば一般企業の人のように一生懸命営業したりしなくても、毎月きちんとお金をもらえるわけやからな。さしあたって何もせえへん人もいっぱいおるよ。俺はそんな人を目標にしたり、憧れの対象にはしようとは思わんな。
ただそういった人と一緒に5人のチームになって現場に行ったとしたら、その現場に対してはもちろんその人と真剣に取り組むで。さすがに普段やる気のない人も、現場に行ったら真剣に行動する。でもやっぱり普段から一生懸命してはる人の言葉って、しゃべりの上手い下手じゃなく、患者さんにはしっかり伝わってると思うねん。仮に5人で動いたら、1人のやる気の無さっていうのは実際表にはあんまり出てけえへんかもしらん。でも普段の訓練に向かう姿勢やったり、生活の姿勢っていうのは、やっぱり一緒に働いてる人にはわかるもんやねんな~。
年功序列もいいもんやで -お金よりも経験をたくさんもらってる
大学の同期とかやと一般企業に勤めてる人がいっぱいおるけど、一般的に不満が多い気がするな。職種にもよるけど。ほんで、だいたいその不満って言うのは人間関係なんよ。仕事に関するもんじゃなくて、上司がうっとうしいだの、客が文句言うだのほとんど人間関係。企業っていうのは利益を追求したり、お金が絡んでくるから仕方ないんかもしらんな。俺らも時には上司に対する不満とかはあるんやけど、患者さんに対しての不満はそんなにないんよ。そもそも患者さんっていうのは弱い立場やから、そんなに文句を言う人もおらんし。だからあんまり不満はないわ。
あと、この仕事って日本の古い体制で年功序列なんよ。今の風潮としては欧米的なやり方を取り入れて、成果主義を取り入れましょうっていうけど、俺は年功序列は悪くないと思うねん。年功序列が悪い悪いって言われてるけど、ほんまに人が頑張りさえできればそんなに問題ないんちゃうかな。結局はその人の気の持ちようやと思うねん。その人の気の持ちよう次第では、いいもんやと思うで。
たとえば自分は絶対負けてないと思う先輩がおって、その人のほうが自分より給料高かったり立場が上やったりすることもある。けど、そんなんどうでもいいと思うねん。「おかしい」って思ったことないもんな。自分の方が能力があるから、その分給料くれって言うのが今の考え方やろ?俺はどっちでもええな。たしかにお金は欲しいけど、それ以上にお金で買えへん貴重な体験をいっぱいさしてもらってると思ってるから。たとえば今の給料の二倍やるから、消防やめろよって言われても絶対やめへんと思うわ。
俺で一番よかったって思ってもらえるような存在になりたい ―心地いい10分間のために
将来的なこととしては、まずはやっぱり救急救命士の資格を取りたい。でも資格取ることが目的じゃなくて、資格をとった上で、救急救命士の中でどれだけ患者さんに近いところにいれるか、親身になれるかを追求していきたいな。
俺は画期的に救急隊っていうのを変えて、どうこうしたいっていう思いはないねん。救急隊としてやれることは限られてるから、その中で患者さんに俺で一番よかったって思ってもらえるような存在になりたいな。たとえば患者さんと一緒に救急車に乗って、10分間で病院まで運ぶとするやん。しんどい患者さんに、この10分間をどれだけ心地よく感じさせてあげられるか。運んだら誰でもいいっていうんじゃなくて、別に印象に残らんでもいいんやけど、他の人やったらようしたらへんかったやろうなっていうことをしたいな。今はまだ運転しかしてないから、実際に患者さんと接することはないんやけど、後ろで処置してる先輩の動きを見ながら「なるほど、そうするんか~」とか「俺やったらこうしてみよう」っていったことを毎回考えるようにしてるな。
消防士っていう仕事をしている人は世の中見渡したら何万人っておる。でも、その中で俺やったから助かったって思ってもらえるような仕事がしたいな。ま、こんなかっこいいこと言ってても、もしかしたら四年後くらいには飲んだくれてるかもしらんねんけどな。あー、仕事行くのいややわーって(笑)
命の大切さを考える機会を与えてくれたこと ―今までのうのうと生きてきた
消防士になってよかったっていうことはいっぱいあんねんけど、自分が健康で生きていることに感謝できるようになったことが一番かな。世の中には、まだ若いのにすごい病気してしまった人とか、苦しんではる人がいっぱいおる。今まで自分はほんまにのうのうと生きてきたなって思うわ。それは、俺が普通の仕事して生きてたら感じられへんかったと思う。しかも俺は自分の家族が亡くなったこともなかったから「死」っていうことをあんまり考えたことがなかった。でも、この仕事をやってると死について実感を持って考える機会がいっぱいあるんよ。前の日に病院へ運んだ人の家の前を翌日通ると、「○○家告別式」っていう看板が立ってて、それがすごいリアルでな。家族の人たちはどんな気持ちなんやろうとか、結局俺らが行ったけど死んでしまったことをどう感じてはるんやろうとか、いつも考えるな。
救急車乗ってたら、人ってすごい強いなって思う時と、すごい儚(はかな)いなって思う時があんねん。この人呼吸止まってんのに心臓はまだ動いてるっていうこととか、逆に1分前まで普通に生きてたのに事故にあったらそれで終わりっていう現場を見たりな。やっぱり一番学んだことは、命の大切さを考える機会を与えてくれたことかな。
健康でいることの幸せ -当たり前じゃなく捉える
仕事面で言うたら、患者さんのためになにかを還元して、自分の知識を生かして自分の技術で助けるってことをしていきたいな。まだ自分自身がどう生きようっていうところまでは来てないんやけど、自分が今健康で過ごせているってことはほんま幸せなことやなと思う。俺のおる消防署っていうのは工業地帯にあるから、指を切り落とすとか腕が切れるというケースが結構あるわけよ。そういうのを日々見ているから、なんの不自由もなく、また大きな怪我や事故もなく健康で仕事をして、生活してるっていうことを当たり前じゃなく捉えることができるようになったな。
話は少し飛ぶけど、ほんま俺は消防士になって色んな現場に行くようになってから、自分の車を運転するときにちゃんとシートベルトつけるようになったもんな。飲酒運転も絶対せえへんようなったわ。酒飲んでもまっすぐ歩けるし、ちゃんと運転できるっていうてる人がいるけど、やっぱりあかんもんはあかん。交通事故起こした人には、飲酒運転の人が多いっていう事実もあるし。「あかんもんはあかん」、こういうのは理屈じゃないねんな。こういうことも消防士になって学んだことかもしれん。
消防士っていう仕事は、一生続けるつもりやで ―自分の肌に合ってる
最後、まあ繰り返しになるけど、この仕事は俺の肌にめっちゃ合ってると思うねん。丸々一日働いて二日休むっていう働き方にしても、消防署の雰囲気にしても、俺に合ってる。今より大きい消防署で働いて自分の力を試したいっていう気持ちもあるから、消防署は変わる可能性あるけど、消防っていう仕事は一生続けると思うな。こんなこと言うたら周りから視野狭いとか言われるかもしらんけど、俺はそれでいいねん。たしかに他の仕事を見てへんから、なんともいえへんっていうことはあるよ。ただ俺はこの仕事を実際にやってみて「ああ、肌に合ってるな」って心から思えたわ。だからこそ、消防士っていう仕事は一生続けるつもりやで。