第3回 仕事インタビュー 宇佐見 千絵さん(1)
- ■宇佐見千絵(うさみちえ)さん プロフィール
- 1983年7月8日生まれ、現24歳。北海道帯広市出身。
高校時代は新体操選手として活躍し、追手門学院大学に進学。
卒業後は大学時代を過ごした関西の地で家具を売る仕事に就く。
神戸市在住。
お客様にウソは伝えられない -接客という仕事
今は大阪の家具屋さんで、家具の販売をしてます。基本的には接客ですね。割合でいうと、接客を8割・事務作業を2割という感じです。販売店なんで、ほとんどは接客をしているけど、その裏で仕入れ伝票を書いたり、メーカーとのやりとりをするのも仕事に含まれますね。あとこれは義務ではないけど、自分で家具などの商品知識を学ぶことは常に心がけるようにしています。お客様に対してウソは伝えられないから、やっぱりきちんとした知識がないとだめなんです。だから商品について一つでも多くのことを学ぶために、自分で勉強するようにしてます。
接客の仕事っていうのは何も商品を売るということだけじゃないと思っています。たとえば多くのお客様は一回目の来店では商品を買わないことが多いんですよ。私は多くの方は「一回目は下見、二回目以降に買いに来る」って考えています。一回目は商品を見ているっていうのもあるけど、販売員を見ている部分もあるんじゃないかって思うんですね。だから「このお店は信用できるお店だ」って思ってもらって、購入するお店の候補の一つに入れてもらわないといけない。そのためには販売員が商品知識などをしっかり持って、それを伝えられるかどうかが大事だと思います。
あと接客ということでは「見ること」もその仕事のひとつだと思っているので、お客様が店内でどういう行動をしているのかを注意深く見るようにしています。たとえばお客様が一度手に取っていたものを返してしまうときがある。これはとっても大事なことだと思うんです。一見なんでもないように思うかもしれないけど「なんでお客様は返してしまったんだろう?」って考えないといけない。一度手に取ったってことは、一度は買おうと思ったってこと。これってお店にとっては、一度売れた商品を返品されたのと同じようなことなんです。商品が汚かったのか、接客が悪かったのか。お客様がなにを考えたのか、なにが気に入らなかったのか。そういうことを知ろうとする努力を怠ってはいけないと思うんです。お客様あっての接客だから、そこまで見て、考えていくことも接客の仕事だと思ってます。
遠すぎず近すぎずの接客 - 「考える時間」の意味
私が意識する接客は、たとえばお客様が店内で一度手に取った物や一度座ったソファーを覚えておくようにします。ここではあえて声をかけないで、その後お客様が店内を一周ぐるりと回ってくるのを待つ。その間、遠すぎず近すぎず距離を置きながらお客様の行動を見ておく。そして機会を見つけて「先ほど、あちらのソファーも見ていらっしゃいましたよね」っていう感じで声をかけると、お客様は「あ、見ていてくれたんだ」っていう気持ちになるかもしれない。そこで「あちらのソファーとこちらのソファーの違いは……」っていう感じで話しはじめると、自然にいい接客ができると思っています。
あと、たとえばお客様と話していて、商品のことなどで盛り上がったとしますよね。こんな時はあえてべったり寄り添わないようにして、「なにかありましたら声をかけてくださいねー」って言い残してふらーっと離れる。お客様にとっては、その商品のことを一人で「考える時間」ってすごく大事だと思うんですよ。夫婦でお店に来られていたら、店員が説明を一通りしたあとその二人による「家族会議」がはじまるケースが多いんですね。そういったお客様にとっては、私たちは分からないところだけを教えてくれたらいい存在。最後はお客様に決めてもらって、そのタイミングで呼んでもらわないといけないんです。販売員によっては最初から最後までべたーって付いて回る人もいますけど、それだと多くのお客様にとって考える時間がない。最終的には「ありがとう。また来ますねー」って帰って行っちゃうケースが多いんです・・・ま、もちろんこういったことは一面に過ぎませんが、こう見るとかなり深いですね、接客は(笑)
あと気をつけていることとしては、お客様を「買わされた」気持ちにさせないこと。いくらいい接客をしても「買わされた」という気持ちにさせてはいけない。あくまでお客様が「自分で買った」という気持ちになってもらうのが販売員の仕事だと思っています。それがなかなか分からなくて、このコツをつかむまでが大変でしたね~。
洋服でいうと、お客様の買おうと思っていた商品にすそ直しの針まで入れてしまったけど、気が変わられて「やっぱり辞めます」ってなったときにどういう対応をするか。普通は「なんで今頃やめるの・・・」っていうオーラを出しちゃうじゃないですか。でも結局それで買っていただいたとしても、「買わされてしまったな~」という気持ちになってしまうかもしれない。そこで「いいんですよ。全然問題ないので、気になったらお店に来てください」って言えば、お客様は「あのお店の接客はよかったから、また行こう」っていう気持ちになるかもしれない。自分が好んで買ったっていう気になるためには、まず「買わされた」っていう気持ちを持たせないことだと思っています。
少し話はそれますが、接客をしていて興味深いと思ったのが、やはり男性と女性のお客様は感覚が違いますね~ 男性の方の8割は見た目で選んでいると思います。「かっこいいんじゃない?」といったような理由で家具を選ぶ方が多いですね。でも女性はたとえば食器棚の扉の高さとか、その開きやすさとか奥行きとか、そういった実用的なところを隅々まで見ています。もちろん、どの店が安いのかもしっかりと(笑)。でも最終的に男性、女性問わず、商品購入の最終決定要素はやっぱり「店員さん」なんですよね。同じ商品で、同じ値段のものを違う店で取り扱っていたら、最後は店員で決める。はじめてのお客様でほとんどの方はその店の雰囲気、店員さんの対応をかなり気にしていると思うんですよ。だから商品を買ってもらうときに、「どれくらい気分よく買ってもらうか」っていうのはすごく気にしていることです。

人と同じことをするだけじゃだめ -お客様あっての接客
随分接客の話ばかりしていますが、もう少し話しますね(笑)。私は日ごろ「自分にしかできない接客」ってなんだろうって考えるようにしています。たとえばあるお店のマニュアルでは、カウンター越しに伝票を書いて、その場で「商品はこちらで大丈夫ですよね」って言って終わってしまうかもしれないし、それで大きな問題はないと思います。でも私は、仮にそのときは何も渡すものがなくてもカウンターから出て、お客様の近くで「ありがとうございました」って言うように心がけています。もし他のお店ではそこまでしていなかったら、それだけで喜んでもらえると思うんですよ。「そんなに高いものを買ってないのに、随分よくしてもらったな~」って思ってもらえれば、次も「どうせ買うなら、あのお店に行こうか」ってなるかもしれない。ちょっとしたことなんですけど、そういったことに気を配るようにしています。
こういう接客に関する考え方は、上司から教わった言葉よりも、お客様から学んだことの方が多いかもしれないです。直接的な言葉で教わったというよりも、生の声から学びとったっていう感じです。私は「自分がされて嬉しかったことをお客様にしてあげる」っていうのを大切にしたいから、自分がお客様の立場の時も「どういう言葉をかけられたら嬉しいんだろう」って考えながらお買い物をしてますね。自分が嬉しいと思えば、それをお客様にしてあげたいと思う。そうやって学んでいければ、必ずいい接客になるんじゃないかって思っています。
こうやってお客様のことを考えて、いい接客ができたら嬉しいですよね。これは仕事のやる気につながります。つまり逆にいうと、仕事に対するやる気の違いっていうのは、一人ひとりのお客様をどれだけ大切にできるかどうかだと思うんですよ。たとえばお客様が商品を気分よく買うことができて「ここで買えてよかった」って言ってもらえたとする。自分がされて嬉しかったことをお客様にもしてあげて、その結果喜んでもらえる。この瞬間を自分も嬉しいと思うことができたら、やっぱり自然といい接客はできてくるし、やる気も出てくると思いますね。
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